雨に佇む
その日は、何日かぶりの晴れだった。
しかも晴天。雨が続いていたのに突然。
待ち合わせ場所に来た君は、空を見て「綺麗だね」と微笑んでいた。
彼女の様子がいつもと違っていたなんて、浮かれていた俺には気付けなかった。
君が見たいと言っていた映画を見に行って、君のお気に入りの服屋を回って、事前に予約してあった夜景の綺麗なレストランに足を運んだ。
今思えば、フォークとナイフを持つ手が止まってぼーっと夜景を眺めていた彼女の気持ちに気付いていれば、まだ良かったのかも知れない。
レストランを出た後、公園に向かった。
ビルのネオンが光って、とても夜景が綺麗だった。
ベンチで今までの事を話した。
そして、話が落ち着いてきた頃、僕はベンチを立ち、唾を飲み込み、「結婚してください」そう言った。
彼女は、
「ごめんなさい」
そう言って泣いていた。
初めて見た泣いた姿、プロポーズ失敗という現実。
全てに混乱していた。
彼女は、泣きながら「プロポーズされる事は前々から分かっていた」と言っていた。
彼女の両親はすごく厳しく、彼女と僕のことについても反対していたそうだった。
僕にその事を相談できなくて、今に至るというわけだった。
僕は嘘が下手で隠すのに必死だった。それと同様に、人の嘘を見抜くのも下手だった。
だが、僕は「君が飽きて僕を振ったならまだしも、親に反対されていたということなら認められるように頑張る。」と言ったが、彼女は頭を横に振り「本当にごめんなさい。親にもこれが最後と言われて来たの。」そう言い残して走り去って行った。
頬に流れていた涙は、ちょんちょんっと降り始めた雨に混じって消えていた。
さっきまで晴れて星が綺麗だったのに、僕の涙とともに雨は強くなっていく。
ここまで恋愛に本気になったことはなかった。
彼女の好みを聞いて、
彼女が行きたいところに行って、
彼女の好きな夜景が見れる所にだって何度も行った。
なのに、どうして。
僕は強い雨に打たれながら、ただただ佇むだけだった。
8/27/2024, 3:02:30 PM