暗がりの中、不安そうに上目遣いでおれを見る少女。嵐で遭難し記憶喪失の彼女は、自分の名前も歳もわからないようだ。童顔の少女だと思う彼女は、おれが大柄なだけで、実は大人なのかもしれない。浜辺で倒れていたのは彼女だけだったから、もう何も知りようがない。
「大丈夫だ。」
おれは彼女の小さい頭をなでる。手の中で、彼女が動くのがわかる。
「待ってろ、今灯りをつける。」
おれはキャンドルを取り出して、火をつけた。
パッと暗闇の中に彼女の顔が浮かび上がる。
「これは?」
不思議そうにキャンドルを指す彼女。初めてなのか、記憶がないのかわからない。
「キャンドル。」
「ふーん。」
彼女はそのキャンドルをまじまじと見つめる。
「青くてきれいだね。」
彼女と出会って3日。初めて彼女の笑顔を見た。
「今日は何があった?」
「何も?」
彼女は何故か楽しそうだ。昨日まで無表情だったのが嘘のようだ。
そういえば、このキャンドルは今日たまたま浜辺で拾ったものだ。そのせいか、少し海の香りがする。
「何か思い出したのか?」
「ううん。でも、懐かしい匂いがした。」
「そうか。」
なんだかおれも嬉しくなった。
11/20/2024, 2:26:31 AM