愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
オリジナル



宝石の魔女

むかしむかし、魔女が存在した時代
あるところに一人の魔女がおりました。少し癖のある栗毛色の髪と少しのそばかすをもった彼女は、人々から『宝石の魔女』と呼ばれていました。

これはとある魔女の人生の記録



「やぁ、初めまして。私はオリビア。」

彼女は私に向かって人生で初めて微笑んでくれた人だった。

生まれた時から、私は周りの人間と何かが違った。
生まれたばかりの赤子は産声をあげ、両親の愛情の中で育つものらしい。しかし私は違った。この世に生まれた私は産声をあげず、一度死産と勘違いされた程の静かな誕生であった。両親どちらからも受け継がなかった栗毛色の髪の毛。この毛色をみて、父は母の不貞を疑い、大喧嘩の末出ていった。そして極めつけはこの顔についているそばかす。私の生まれた村ではそばかすは不吉の象徴だと言われ、愛する我が子についていようもんなら、母親たちはこぞって白粉をつけ、隠していた。しかし私の母は一言、こう呟いただけであった。

『あぁ、私は悪魔の子を産んでしまったのね』

こう呟いた三日後、母は首を吊って死んだ。私が五歳の頃の話だ。

母が死んだ後、不吉の象徴を持つ私に居場所などなく、村を出て森の中に入っていった。死ぬつもりだった。獣に喰われようが、野垂れ死のうか、どうでもよかった。どうせ居場所などない。あくる日もあくる日も歩き続け、遂に私は大きな木の根元に倒れ込んだ。立ち上がろうにも立ち上がれず、『死ぬ』、その事実が頭の中を覆い尽くした。しかし、いつの間にか目の前に一人の女性が立っていた。

「やぁ、初めまして。私はオリビア」

濃い茶色の髪に、緑色のワンピースを着た彼女はにこりと微笑むと、じっと私を見つめてきた。

「人間が十日間もこの森で生き残るなんて珍しいと思ったら…君、魔女じゃないか。通りで獣達が大人しいと思ったよ」

そう言った彼女はやせ細った私を軽々と抱えあげると、どこかへ歩き出した。そこで私の意識は途切れてしまった。


目が覚めると、そこは丸太で組まれた小さな家の中であった。自分が今どこにいるのか分からなくなり、辺りを見回しているとドアからさっきの女性が入ってきた。

「おや、お目覚めかい?改めて、初めまして。私はオリビア」

「……………」

近くの椅子をベッドに寄せて座る。その一連の動作の間に何故か全く音がしない。衣擦れの音や椅子に体重をかける音、息を吸う音も、何もかも聞こえない。返事をしない私を諭すように、女性は優しく話しかけてくる。

「挨拶はとても大切なことだよ。挨拶は心の切符さ」

「…………初め、まして」

久々に出した自分の声は掠れていて、まるで老婆のような声だった。女性が水の入ったコップを差し出してくる。それをありがたく受け取り口をつけたところでふと思う。水の入ったコップなど、彼女は持って入ってきただろうか。

「うん、いいね。君の名前は?」

深く考えている余地などなく、問われる内容に耳を傾ける。

「…名前…なんてない…」

「ほう、今どき珍しいね」

「………………」

驚かれるのも無理は無い。この時代には孤児にも使用人にも名前がある。

「まだ混乱しているようだね。…少し話をしよう。単刀直入に言うと、君は魔女だ。」

「…魔女?」

突然の話に、私はただ繰り返し言葉を発する他出来なかった。

「この世には二種類の魔女が存在する。一つ目は先天性魔女適正者。これは母親の子宮内に存在する段階で、もう既に魔女である人のことを指す。君のような子のことだ。二つ目は後天性魔女適正者。魔力は持っているが、遺伝子の構造上魔女として生まれてこなかった人のことを指す。しかしこのパターンでは『魔女補完』という特殊な魔法を使うと魔女となることができる。ここまでは良いかな?」

「……はい」

「うん、その歳にしてこの内容を理解できるのも魔女であるおかげさ」

「!!」

私の頭に衝撃が走る。確かにいつも疑問に思っていた。周りの大人たちが話している内容を理解し、同い年の子供に話しても、いつも不思議そうな顔をされていた。あの子供達が変なのではない。私が魔女だったから理解出来ていたのだ。そう思うと腑に落ちる。

「さてここからが本題だ。私は魔女になって二百年。そろそろ弟子を取ろうかと思ってね。君、私の弟子にならないか?」

「…!…でも…私……」

「どんなに素敵な花でも、土が合わなければ育たない。人間だって同じさ。優秀な人材でも環境が悪ければその才は発揮できない。賢い君なら、もう私の言いたいことが分かるね?」

私は魔女。魔女は魔女の元で暮らすのが一番良い。私の中の答えはすぐに決まった。

「…よろしく…お願いします…」

「うん。よろしくね、カロン」

「…カロン?」

「あぁ、君の名前だ。今考えたんだが、案外良いだろう?」

カロン、なんて素敵な響きなのだろう。

「……ありがとう…!」

私の頬に温かいものが伝っていた。その姿を見て、彼女は満足そうに頷く。
その瞬間、部屋中に腹の音が響きわたった。恥ずかしさで縮こまっていると、彼女、オリビアがこちらに手を差し出す。

「ではカロン、まずは食事にしようか」

これが私、魔女カロンの誕生、そして始まりであった。

2/26/2025, 9:32:47 PM