その花は、とても堅固でぴしりと立っておりました。けれど、その強さは生来の物ではなく、とろけた中身を隠すようにして周りを固めているようなのでした。
また、見ているだけであれば美しく、清い小川のようでしたが、触れればたちまち目の前から消えてしまいます。そんな、ちぐはぐで気難しい、愛おしい花でした。
私の物にしたいと思いましたが、誰かの所有物にするには高潔で、我儘で、愚か過ぎました。私はそれを崩したいと考えていましたが、いつの間にか願望の中の花を見つめていたようでした。万華鏡を回して、本当では無い世界を楽しんでいるだけなのでした。
いつかその花に、「私と一緒に来てくれるか」と尋ねたことがあります。花の答えは沈黙でした。喜ばしくないことには、肯定の沈黙ではなかったことです。花に何かの縛りがあって、その場を離れられないのか、私が嫌なだけなのか。それはまったく分からないのですが、それ以上聞くことは許されませんでした。
花は、私の全てを奪いました。それも、意図的にです。私は怒りを通り越して呆れることしか出来ませんでした。けれど、そんな罪を犯したからにはもう、私と花とは共にいることはなりませんでした。
私は悲しみました。全てを奪われてもなお、私は花を愛していたからです。いえ、ここまでされたなら死なば諸共、という意志もあったのかも知れません。しかし、執着のようなそれは確かに愛でした。
もう一度、私は花に聞きました。「私と一緒に来てくれるか?」
花は答えました。
「あなたと私は二つで一つ、」その言葉を聞いて、私は嬉しくてなりませんでした。あの花が、ようやく私の愛を受け入れてくれたのです。しかし、花は続けました。
「けれど、共にいるのは毒を生むだけ。どちらかが欠けて一つになれる。」
ああ、それを聞いた時、私の身体は動きました。花の凛とした茎を持って、優しい砂土のベッドから引きずり下ろしました。
花はもう喋ることなく、ただ朝露を地面に幾滴か落とすばかりなのでした。
お題『繊細な花』
6/25/2024, 10:40:28 PM