金色に輝くあの弓は誰を射るのだろうか。光という矢をどこに向けて放つのだろうか。
受け取る相手もいないのに。何時いかなる時もただ静かに佇む。誰に視線を向けられずとも。
「月が綺麗ですね」
きっと君には届かない思い。君は読書が苦手だから。それでもよかった。借り物の言葉でしか伝えられない想いだから。
ほんの一瞬でも,共に同じ空をただ眺められるだけで。それだけで十分すぎるほど幸せだと。そう己に言い聞かせる。
「だね。いつか裏側も見てみたい。ねぇ,どうしたらいいのかな?」
「······月までは2ヶ月で行けるそうですよ。きっと思うよりずっと近い」
自転と公転の関係で,表だけを見せる天体。地球からではどうしたって裏側は望めない。
心のよう。仮面を纏った僕達の。
「じゃあ,これからよろしく」
君はアポロを差し出しながらそんなことを言う。口に広がる甘いイチゴとチョコの味。
臆病で曖昧な告白に返されたのは,情緒的な台詞。借り物の愛の言葉を囁くよりも,甘美な言葉に囚われた。
テーマ : «三日月»
1/9/2023, 3:58:59 PM