「ねーちゃん」
「んー?」
「ねーちゃんてさ、嫌われてんの?」
煩い雨音に鉛筆のカリカリと言う音が混じって聞こえる。インクや筆、紙など絵を描く道具と机にベッド、タンスといった生活に必要なものが最小限置かれた部屋ではいかにも絵描きらしい独特な匂いが部屋に詰まっている。
自分の部屋から持ってきた漫画を閉じ、姉のベッドから起き上がると、姉はこちらを見向きもせずに鉛筆を動かしていた。
「無口で無愛そうなつまらん奴は皆からよく思われないんでしょ」
顔色一つ変えず、さらりと言ってしまったねーちゃん。
「寂しくないの、ひとりって」
「お前がいるからなぁ」
「でも僕が彼女とか作ったり何か熱中できるもんできたら、ねーちゃんから離れるよ」
「そん時はそん時。てか、ひとりって悪いもんじゃないから」
ずっと動き続けていた手がやっと止まる。天井に手を伸ばし、固まった体をほぐして、姉の目が僕を捉える。
「お姉ちゃんのこと心配してくれたの?」
「僕は心配してないけど、母ちゃんと父ちゃんがさ」
「なんでだろうね。学校休んでないし、成績もいいのに心配することないよね」
机を片付け、勉強するからと僕を追い出そうとする。
「ねーちゃんの絵欲しい」
「急にどうしたの?いいよ」
自分の部屋に戻り、タンスの中に隠していたケースを取り出した。中には幼い子が描いた絵が数枚入っている。
どれもクレヨンで色鮮やかに彩られていて、眩しいくらいだ。
これは昔の、僕が生まれる前にねーちゃんが描いた絵らしい。ねーちゃんが中学生の頃に捨てようとしていたが、母ちゃんが取っといて、僕が欲しいと言ったので今、僕の部屋に絵が置かれている。
ねーちゃんの部屋にあった絵を思い返す。どれもモノクロの絵だった。
今僕が見ているのは、見ていてワクワクする自然と笑顔になるとっても好きな絵だ。
辛い時はこれを見て元気になれる。
子供の絵だから上手いとは言えないけど上手いよりも大切なことがこの絵にある。
ねーちゃんが今書く絵は、凄い上手いんだけど、大切な何かが足りない。
僕は小学校の頃に使って以来しまっておいた絵の具セットを取り出した。
数日後、ねーちゃんの部屋に行った。
ノックをすると返事が聞こえたので、ドアを開けると相変わらず、絵を書いている。
「はい、これ」
「これって」
ねーちゃんがこの前くれた絵に色を付けた。
これでねーちゃん気づいてほしいけど、それは簡単じゃないから僕はこれからもねーちゃんの絵に色を続けようと思う。
いつかカラフルな世界に戻るため。
5/2/2024, 10:35:09 AM