霜月 朔(創作)

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柔らかい雨



柔らかい雨が降る。
街の灯も、森の緑も、山の稜線も、
灰色の霧に溶け込んでいく。

そして、お前も。
柔らかな雨の狭間に
姿を隠してしまった。

立ち去る前に見せた、
どこか淋しげな笑顔が、
余りに儚くて。

俺は、柔らかい雨の中、
お前を探し、彷徨い歩く。

お前は独り、
柔らかな雨の中に
立ち尽くしていた。

「柔らかい雨だから、
濡れたりはしませんよ」と。
強がるお前を、
そっと抱き寄せる。
その身体は、とても冷たかった。

…こんなに冷たくなるまで、
ひとりで耐えていたのか。

俺は言葉を飲み込む。
今のお前には、
重荷になるだろうから。

柔らかい雨が降る。
お前の双眸から、
静かに溢れる雨粒を、
俺は気付かぬ振りをして、
お前を、抱き締める。

ただ静かに、
お前を抱き締め続ける。
…雨が止むまで。

11/6/2024, 5:47:27 PM