みんなが知ってる世界とはちょっと違う世界。人口の一割だけが病気で能力を持っていない。政府は色々なポスターでその病気の人をバカにしてはいけないと伝えているけれど、すぐにそんないじめがなくなるわけがない。それはあなたの住んでいる世界でもきっとそうだろう。
俺は病気だ。だけど学校でも一人いるかいないかの中で、たった一人俺だけが病気なのは嫌だから隠している。皆には「度胸」という能力を持っていると伝えている。そうすれば、気づかれずに、いじめられずに過ごせる。
そう思ってた。でも実際は、無能力だけがいじめられるわけじゃない。能力の中で格差がつけられて、その差が大きければ大きいほどいじめられる。僕の──いじめを逃れるための嘘だけど──「度胸」は案の定、能力じゃなくとも得られる物だ、と言われいじめられる。
『火事です。火事です。今すぐ避難してください。』アラームと同時にこんなアナウンスが流れた。
「消防署に連絡したけど、渋滞と距離があるので1時間は掛かるらしい。まだ中に患者は何人いるんだ? 俺の妻は今どこにいるんだ?!」
隣からある同級生の声が聞こえた。
「お前の能力『度胸』なんだろう? いつもは役に立たないけど、お前の出番がやってきた。行ってこいよ。」
嘘なんだ。うそ。うそだ。────行きたくない。
背中を押され、同級生は叫んだ。
「こいつの能力が役だちそう! 行ってくるらしい」
気がつけばもう火の中だった。皮膚が焼け、ドロドロに肉が溶けていくのを感じる。皮が剥けたところから肉に熱気が入って、死んだほうがマシなほど痛む。
遂には心臓だけになっていた。──能力『心臓人間』──心臓には手足が生え、歩けている。目があり、前が見える。そこに女の人がいた。俺は叫ぶ。
「逃げろ!」
爆発音とともに俺の命は燃え尽きた。誰も救えず、何かを残すわけでもなく。自分に嘘をつき続け、終いにはその嘘が自分の首を絞めた。
取り返しのつかない失敗をした。
テーマ-【命が燃え尽きるまで】
9/15/2024, 11:12:11 AM