猫灘

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もしも未来を見れるなら

そろそろガタが来たな、と思う日々が増えた。
関節はギシギシと軋むしオイルをさしても直ぐに元通りになってしまう。なにより脳内チップの具合が悪く視界が霞んだり頭にノイズがかかる回数が増えた気がする。
そろそろこのボディともお別れか。いやここで人生を終わりにしてもいいかもしれない。オートマタの自分が人生というのは可笑しいかもしれないが、元々は人間だった分そう思ってしまうのだ。
「あ! 先輩!!」
しんみりと今後のことを考えていればそれを吹き飛ばす大声が飛んでくる。
「居ましたよ! バーテンダー!!」
バーテンダー、とはなんのことだったか。暫くの間、反応できなかったが二、三日前に酔っ払いながら話したことを思い出した。星降る夜に現れるバーテンダー。そのバーテンダーが出す酒はとてつもなく美味しい。
「いやあ、先輩の嘘か酔っ払いの妄想かと思ったんですけど本当に居たんですねえ」
嘘か妄言て酷くないか、とは思うが後輩の言葉は止まらない。まるでいつもと逆のようだ。
「酒もめちゃくちゃ美味しかったです! 多分先輩と飲んだのは違いますけど、星のかけらを使って作ってくれたのは同じでしたよ」
頭にノイズがかかる。
自分が飲んだのは、そう、甘露のように甘く美味しい酒だった。
「なんか先輩元気ないですね? 大丈夫ですか?」
後輩が心配そうに覗き込んでくる。
言葉が上手く出ない。まだ、止まってしまう訳にはいかない。
「大丈夫に決まってんだろ! ちょっと具合悪いだけだよ」
「え、じゃあ今日はもう上がった方が良いですよ。そろそろボディにガタが出始めそうって前に言ってましたし」
そんな話をしただろうか、と相変わらず頭のノイズが邪魔で思考が纏まらない。
「そうするかなあ悪いな」
「いえ、たまには先輩を労らないと」
「お前~!」
「わあ、すみません!! でも本当にメンテ行ってくださいね」
心配してるのは本当なのでと殊勝な言葉に思わず笑いそうになる。普段は茶化してくるくせにこういう時は察しが良い。
「じゃあ言葉に甘えるかな、その代わり掃除サボるなよー」
「掃除サボるのは先輩でしょ」
ワハハと笑いあって「じゃあまた明日」と言った所で思考が途切れた。

4/19/2023, 12:39:23 PM