「秋ってさぁ、もの悲しいよね」
定番を超えてもはや伝統とも言える秋についての考察をミサトが放ったのは、オール明けの朝日を見ながらだった。
暇な仲間で朝まで飲んで、始発を待つ駅のホームで哀愁を感じるって、大学生やってるなぁオレら。そんな思いに浸れる時間はあと半年もない。青春なのか。そして社会に出れば青春が終わるから、その一歩手前の秋。
「黄土色の秋、みたいなものか」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」
上手くもない変な造語を口走ってしまった。徹夜明けの脳はバグだらけだ。
「もう一年くらい、大学行けないかなぁ」
今度はミサトが口走る。
「行く気がない言い方だな」
「だって最初の一年は行きたくても行けなかったし」
オレたちの年代はコロナ禍にかすってキャンパスライフを一年棒に振っていた。その期間は友達もできてないし、遊びにも行けなかった。
「友達がいて、バイトもできて、大学に行かないのと、なんもなくて大学に行けないのは全然違うじゃん。あれは軟禁だよ。アウンサンスーチーさんだよ」
「やめとけ」
あの方はいま刑務所にいる。
もっと遊びたいし、もっと騒ぎたいし、昼まで寝ていたい。でもそんな一日を過ごす度に、こんな朝はいつも虚しい。この日々で何か残るのか。
「なあ、ミサトは何かを成し遂げたいと思ったことはない?」
「んぁ?なにそれ?」
もしかしたら、いまが秋なのかもしれない。目標もなく、だらだらと生きて、あと一年、あと半年、あと十分だけこのまま寝かせて、と。それは青春じゃない。終わったあとにもの悲しさが残るだけの秋だ。どうせなら一生青春してたい。
「作るんだよ、オレたちで」
「へ?」
「オレたちで、一年どころか、十年、百年も続けばいいって思える世の中を!」
そして彼らは軍事クーデターを起こし、時の総理大臣を軟禁した。
11/4/2024, 11:33:05 PM