私は失恋と言うものを知らない。
失う以前に、所持をした事すらないのである。
恋は情熱と言うが、私はその火の灯し方を知らない。恋とは才能ではなかろうか、と思うのだ。火の灯し方、或いは花の咲かせ方。教えられずとも出来る人は出来るだろうし、原理や法則を学んでもどうも上手くいかない人だっているのだろう。私は、恋というものに触れようとした事すら無いけれど。
思い返せば、あれは恋だったのかもしれないと、思う事はある。ただ、それだけだ。私は恋という得体の知れない小さな怪物に触れることを恐れて、掴み取ろうとすらしなかったのだから。
失う事は恐ろしいと知っているから、私は恋をしない。どうせ失うと初めから分かっているのなら初めから手にしない方が幸せなのである。
あの計り知れない苦悩を味わってみたいと言えば、みたいけれど。それも無知ゆえの能天気な好奇心に過ぎないのだろう。
6/3/2024, 12:17:20 PM