時はVR MMO RPG全盛期。ゲーム世界の中で、何もかもが手に入る時代であった。
現実と同様の感覚をゲーム世界で味わうことが出来るこの世の中で、最早ここはもう一つの現実であり、ゲーム内に延長された身体感覚は、どちらが元の世界なのか時より迷ってしまうほどリアリティに溢れていた。
本来、現実世界では生命を維持するために、食事や睡眠が必要になる。だかしかし、狂った一部のプレイヤーたちは、仮想現実内にも関わらずその必要性に錯覚を起こしてしまい、ゲーム内で食事を取らなければ、空腹を感じるようになり、睡眠をとらなければ、頭が働かなくなる、そんな感覚に陥ってしまうようになった。
何が現実で、何が虚構か。この世界で起こっている事、という観点で見れば、ゲームの中の物事であろうと、夢の中の物事であろうと、それは生きている人間が感じている事であるからして、すべて現実であるだろう。
一部が陥った狂気はやがて伝染し、多くの人々がゲーム世界で一般生活を送るようになった。ゲーム外での身体は、無数のチューブに繋がれ、食事や排泄などはすべて自動化された。意識の大半はゲーム内にあり、時たま機械のメンテナンスの際にだけ、彼らは夢から醒めるように、いや、一時の夢を見るかのように、元の世界へ戻ってくる。
やがて、ゲーム内の世界こそが『現実』と呼ばれ、元々の世界が『リアルワールド』と呼ばれる時代がやってくるだろう。
何をするにしても、その意思一つで、自由に思うままにすることができたはずの『何もいらない理想のゲーム世界』は、そこに何もかもがあるようになってしまったがために、『何かしらが必要不可欠な現実世界』となった。
いつか、その現実から目覚める人が出てくるのだろうか。命一つで、自由に思うままに何でもできる、この『リアルワールド』に還ってくる人間が。
4/20/2024, 9:35:11 PM