安達 リョウ

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1件のLINE(終わりの引き金)


“俺も好きだよ”

………。
文脈からして何の脈絡のないLINEが届いたのは昨日の夜。
どこをどう切り取ればその一言が返ってくるのか理解できず、悩みすぎて昨晩は余り眠れなかった。
―――付き合って一年弱。
浮足立っていた頃は遠くなり、新鮮味すら薄れてはいたものの―――お互い落ち着いた交際を続けてきたと自負していた。
それだけにこのLINEは青天の霹靂で、わたしは心底驚いて目を疑わずにいられなかった。

わたしは溜め息と共に机に突っ伏す。

「怒って追求すれば、楽になるのかな………」
呟いてみるものの、そんな勇気は出ない。

LINEの確認が少し遅れたのもあって、動揺から彼に連絡ができないままになっている。
彼も彼で送りっぱなしで誰宛に送信したかなんて気にも留めてないのだろう。
………それともわかっていて、誤送信に気づいていながらわたしへの後ろめたさに放置している、とか。

このまま時が解決するのを待ってる?
うやむやにしたい?
それとももう、これで別れても仕方がないと?

ああ、ぐるぐると悪循環。
良くない思考、良くない感情で埋め尽くされる。
―――何も考えず電話して、どういうつもりだったのか問いただせばいい。
わたしにはその権利がある、何せこんな爆弾を先に向こうが投下してきたのだから。そうして何が悪い?

“俺も好きだよ”―――

勢いのまま相手の番号を開こうとしたが、再び文面が目に入りわたしは不意に指を止めた。

このLINEでの誤送信で誤解って、例えばどんな状況………?
え、その処理の電話をわたしからするの?
徐々に冷静になり、わたしは次第に冷めゆく恋心を認識せずにいられない。

―――すると突然着信の音楽が流れ、わたしは誰からか確認した上で徐ろにその通話ボタンを押し開いた。

「………。もしもし?」
『………』
「………」
『………あの、さ』

彼から滲む雰囲気、声のトーン、冒頭での沈黙。
ああ、通話口からでも一瞬でわかる反応が逆に有り難い。
覚悟をする暇もなかったのが少し痛かったけど。

―――一年間の思い出が走馬灯のように駆け抜ける。
………わたしは一言も発さず、そのまま無言のうちに通話を切った。
そうして彼に繋がる全ての連絡先を断ち切った後、

もう彼から二度と鳴らないスマホをひとり握り締めて―――再度机の上に突っ伏すと、ただ目を伏せた。


END.

7/12/2024, 7:45:20 AM