『七夕』
星祭りの夜空を見上げるとどんよりとした雲に覆われている。一年に一度、この七夕のときにだけ会える夫婦が雲の上の星空では人目を気にせず仲睦まじく過ごしているらしい。年がら年中会おうと思えばいつでも会えるというのはありがたみのあることだ。
近所で大きめの夏祭りがあるということで待ち合わせ場所は人でごった返しており、浴衣を纏う人たちをちらほらと見かける。その中の一人がひときわ輝いて見えたのは気のせいではない。こちらにまだ気づいていない彼女ひとりを目指してまっすぐに進み声をかける。
「お待たせ」
「おつかれ〜。人多いのによく見つけられたね」
白地に青い朝顔柄の浴衣姿な彼女の、普段とは違うアップにした髪型を前にドキドキしながらも答える。
「だって、君は俺の織姫だから」
バチンと音がしそうなぐらいのウインクを決めると彼女は引きに引いていた。
「そのやり取り、さっきイタいカップルがやってた」
キマったと思っていたのが途端に恥ずかしく思えてきた自分に彼女が問う。
「それより、言ってほしいことあるんだけど?」
「……浴衣、すごい似合ってる」
「よろしい」
ふふと少し照れたように彼女が笑う。そして、差し出した手を取った彼女がやっぱり星のように輝いて見えたのだった。
7/8/2024, 6:35:50 AM