ミミッキュ

Open App

"梅雨"

 日記を書き終え、スマホを手に取る。
「うお」
 悲鳴に似た声が漏れる。日記をつけていた間に日付けが変わったようだ。
 卓上カレンダーに目をやる。日付けが変わる前は月最後の日だった為、捲って次月のページにする。
「来ちまった……」
 また、今度は明らかな悲鳴が漏れた。
──今年も、一年で嫌な時期に入った……。
 実際は梅雨前線が来たら梅雨入りになる。去年は確か同じ月の九日に来ていた。だから、まだ来ていないかもしれない。
 だが【六月】というだけで、憂鬱になるのは仕方がない事だろう。世間一般的に六月は、梅雨だから。
 小さい時から、雨が近付くと頭が痛くなる。その頭痛は雨が止むまで続く。
 だから梅雨の時期は毎日のように頭が痛く、痛すぎて移動すら困難な時もある。
 視線を落としてハナを見る。相変わらず膝の上で身体を丸くして大人しくしている。顔は洗っていない。
 俺の視線に気付いたのかこちらを見上げて「みゃあん」と構って欲しそうな声で鳴いた。
 日記を閉じ、「はいはい」と頭を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じて、溶けたように俺の手に頭をもたげた。
「ったく、……本当に甘えん坊だな、お前」
「みぃ」
 呑気なハナの鳴き声を片手で鍵を開けて引き出しの中に日記を仕舞い、引き出しを閉めて鍵をかける。
「ほれ、ベッドに行くぞ」
 ハナを腕に抱えて立ち上がると「みゃあ」と鳴いて腕の中に収まった。
 ベッドの端に腰掛けて下半身を布団の中に潜らせ、ハナを自身の腹の上に乗せて栞が挟まった本を手に取ると、ハナが身体を滑らせるように布団の中に潜り込んで、俺の脇腹辺りに身を寄せるように身体を丸めた。
──今年は、ただ憂鬱なだけじゃない梅雨になりそう。

6/1/2024, 12:51:19 PM