その子はまるで真夏に咲くヒマワリのようだった。
転校初日。クラスの第一印象ははっきり言って“ひどい”ものだった。教壇の上で自己紹介する僕に誰も目を合わせようとしない。寝てるヤツ、読書してるヤツ、スマホでゲームしてるヤツ。ソイツ等もひどいけど、注意しない担任もどうかと思った。そんなわけでとりあえず、新しい学校生活には夢も希望もわかなかった。
でもそんな中に彼女がいた。僕は彼女の隣の席だった。初日から筆記用具一式を忘れた僕に親切に貸してくれた。シャーペンも消しゴムも定規も、何もかもが黄色。良く見れば、彼女の長い髪を1つに纏めているヘアゴムも、片耳に付いているピアス(この学校の校則ではセーフらしい。もう学校全体がひどいんだと思った)も、彼女が持っているもの身につけているもの全てが黄色だった。
彼女はいつもにこにこしていて、僕が見る限り真面目に授業を受けていた。周りがこんなに粗悪だと言うのに、1人だけ凛としていた。まるで夏の、真っ直ぐ伸びるヒマワリのようだと思った。
『ここが世界の全てじゃないから』
暫く経ってわりと彼女と仲良くなってから僕は、どうしてそんなに真っ直ぐでいられるのかと聞いたことがある。そうしたら、彼女は笑いながらそう答えた。成程と思った。彼女はずっと遠いところを見ている。こんな、長い人生の中のほんの僅かな時に意識を向けて思い悩むようなことをしないのだ。彼女は僕よりもずっとずっと大人で、自分を持った人だった。僕は彼女が眩しいと思った。
あれから十数年。彼女はどうしているだろうか。結局、彼女と一緒に過ごせたのはあの1年だけで、学年が上がった翌年はクラスが離れてしまった。そうこうしているうちに彼女は海外へ留学し、向こうの大学に入り、今や世界を相手に活躍しているらしい。
夏がくるたび、街でヒマワリを見るたびに思い出す。たった1年だけの関わりだったけど、僕の記憶の中ではずっと枯れないヒマワリとして遺っている。またいつか、どこかで会えるだろうか。遠い日の記憶を今夏も辿りながら、そんなことをひっそり思った。
7/17/2023, 1:23:34 PM