貴方は、秋風がそよぐ中で一人、欠けない月を見る私の前にいつの間にか現れて、無表情のまま私を酒飲みに誘います。
貴方と酒を飲み談笑する時間は、私の人生において最大の楽しみと言っても過言ではありませんから、断る筈もありません。
貴方とは全く酒の好みが合いませんので、いつも違う色の酒かテーブルに2つ並んでいます。
貴方は酒を飲む間も、決して口数が多い訳では無いですが、情熱的な芸術論者であり、貴方が話す一語一句が私を驚かせます。
貴方は、今まで誰にも知られなかった、知られたくなかった私の憂いを知っているようです。
貴方は、私の心をその冷たい手で撫でてきます。でも、貴方は決して、私の心の中に手を入れることはしません。
貴方は人との正しい距離感というものを熟知しているようで、私はあなたのそれに何度も救われていますし、貴方と一緒に酒を飲めるのはそれのお陰です。
でも、月明かりの差す中で酒を飲むと、それがどうしようもなく寂しくなってしまいます。
どうしようもなく我儘な私を、どうかお許しください。
いつの間にか雪も止んでしまいました。
貴方を望んだ罰なのでしょうか。
辺りが春めく中、貴方の影は今も月明かりの下、秋風に揺られています。
11/14/2022, 2:23:15 PM