視界から色が消えた⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯らしかった。
らしい、なんて曖昧な表現を使った理由はごく簡単で、『ユートピア』というこの世界自体にそこまで色はなかったからだ。
だけどもよくよく見てみれば、そこら辺に咲いている花に色がない。濃淡が辛うじて分かる、そんなレベルならまぁそういうことだろうと思うしか無かった。
色がなくなってもまぁあんまり不自由しないだろうなんて思った時、彼を見かけた。
なんてことない顔で演奏者くんが歩いていて。
彼はそもそも灰色の服しか着てないから特に何も無くて。
なのになぜだかとてつもなく寂しくなってふと近づいて裾を掴んでしまった。
「⋯⋯! ⋯⋯⋯⋯⋯⋯けん、りょく、しゃ」
たどたどしく言葉が紡がれ、驚いているのが分かる。
「⋯⋯⋯⋯何を」
「いや、うん、なんか」
そう言いながら慌てて手を離して微笑んだ時、顔に手を当てられた。
そのままじっとボクの方を見つめる。
距離感やら手の置き方やら色々と心を乱す要素が多すぎる中、彼は口を開いた。
「⋯⋯⋯⋯色が判別できないのかい?」
「⋯⋯⋯⋯え!?」
なんで分かったのか、なんて思ったボクの心を察したのか彼は笑いながら言った。
「目を見れば分かるよ。一日程度で治る。心配なら今日はなるべく早く寝るといい」
優しく微笑みながら彼は手を離して去っていった。
少しだけ彼に触れられて色が戻ったような感じがしたのはきっと気の所為だろう。
4/18/2024, 1:48:31 PM