6/7 お題「世界の終わりに君と」
世界は速やかに崩壊に向かっていた。人間たちを守護する神が、魔神たちに敗れたのだ。
私はその時、地下深くの竜の巣で、親竜の帰りを待つ小竜と共にいた。地鳴りに怯える小竜の背を撫でる手が、少しずつ、粉塵のように空気に溶け出していく。
キュウン、と細い声で小竜が鳴いた。
「大丈夫。君は、消えたりしない」
もう一度、キュウンと鳴き声。真っ直ぐに見つめてくる瞳に、私は心からの笑みを浮かべた。
「大丈夫。人間のいない、君たちだけの平和な世界がやって来る」
竜を守る私は「異端」だったけれど、それでも人間である事からは逃れられない。人間の世界と共に消え去るさだめだ。
「最後に君といられてよかった」
両腕を広げて抱きしめる。
その時、私の頭の中に声が響いた。
―――さいご に、
私は目を見張る。この小竜は、まだ己の意思を語り始めるには幼すぎるはずだ。
―――きみ と
バサリと力強い羽音が聞こえた。見上げる。親竜が神々との戦いから帰ってきたのだ。
―――いら れ て
親竜の力を借りて語っている。私はそう直感した。
小竜が私の頬に口先をすり寄せる。
―――よかっ た
「ああ……」
涙があふれた。もう一度抱きしめようとした手はもはや塵と消え、次の瞬間、私は最後の涙のひとしずくまで、この世界から失われた。
(所要時間:25分)
6/7/2023, 10:53:12 AM