「…おはよ。今日の空は何色かな?灰色だといいな。」
誰も居ない部屋に落ちる言葉。僕の心は死んだままだ。
「君は酷く退屈しているようだね。」
バイト先の喫茶店、店長にいきなり言われた言葉。
「…不真面目って事っすか?」
「あぁ、違うよ。ただ何となく、そう思っただけだよ。」
店長は少し変わっている。いつも無表情で何を考えているのか一向に読めない。
「何か趣味とかはないの?好きな事とか。」
「…店長、お客が居ないからって雑談し過ぎでは?」
「いいよ。どうせ今日も誰も来ないしさ。」
人通りから外れた場所にあるからか、店はいつも閑古鳥が鳴いていた。店長が宣伝しないからな気もするが。
「趣味も好きな事も、ないです。」
僕の言葉に、店長が少し寂しそうに見えた。そして少しして口を開いた。
「僕の母校で、明日絵の展覧会があるらしい。見て来るといい。入場料はもちろん僕が出すよ。」
絵、か。興味もないが、店長は言ったら聞かない節があるからな。
「分かりました。明日行ってみます。」
僕がそう答えると、店長は少し微笑んだ。この人の表情がこんなに動いているのを初めて見た。
次の日、僕は店長の母校に居た。興味は湧かない。ふと考える。僕はいつからこんなにも無気力になってしまったのか。両親が離婚した時か。クラスメイトに虐め始めた時か。それとも、初恋を目の前で奪われた時か。どれも違うようで、どれもが当てはまっているようだった。でも一つ言えるのは、どんな時でも僕の心は生きていた。じゃあ、どうして、今僕の心は死んでいるの?
「…もう帰ろう。」
そう思った時、一枚の絵が目を刺した。初めて見た絵なのに懐かしさを感じた。くすんだ色なのに、どこか清々しさが残る。僕は初めて泣きじゃくった日を思い出した。そうだ、あの日だ。泣いても変わらないと知って僕が大人になった日に、僕の心は死んだんだ。
「…あれ?何で僕、…泣いてるんだ?」
涙は止まらない。でも心地良い。心の深呼吸の音が聞こえる。なんだ、僕の心はまだ生きているようだ。
11/27/2025, 12:59:49 PM