ㅤこのままだとヤバいかもしれない。最初にそう思ったとき、ケーサツでもどこでも駆け込めば良かった。あのときならまだ、『受け子なんて知らなくて。抜けられなくて』とか何とか言って泣けば、情状酌量の余地は充分にあっただろう。
ㅤもう限界だと悲鳴を上げる脚や肺を、心の中で宥める。頼むよ、もう少しだけ頑張ってくれ。
ㅤ正直、もう一歩も歩きたくなかったが、そんなこと言っていられなかった。ザワザワした気配がまた近づいてくる。
ㅤ逃げ込んだビルの階段を、上へ上へと俺はのぼった。隣の建物とスレスレの位置で立っているこのビルなら、追っ手の裏をかけるはずだ。
ㅤ屋上に着いたと同時に、複数の激しい足音が追いかけてきた。確認している暇はない。捕まったら終わりだ。
ㅤ足を止めることなく無我夢中で走りつづけ、建物の淵まで来ると、俺はそのまま思いっきり地面を蹴った。
ㅤマジかよ、あとちょっと……届かない……。
『届かない……』
5/9/2025, 9:10:46 AM