ドルニエ

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 この世に超越者などいない。いてはならない。彼か彼女か分かる者はいないが、ともかくソレは思う。ソレが思うに、超越者とは理不尽を押しつけられる一番割に合わない役職だ。死なないから逃げられず、何でもできるということは何もしないこともできるということで、何をしても、あるいはしなくても、やはり超越者の選択になってしまうのだ。
 しかしてものごとは極めて複雑だ。絶対的な力をもった魔王とか、悪の組織の頭目、なんて分かりやすい黒幕などどこにもいない。そいつひとり殺せば万事解決、ラブ&ピースなハッピーエンドなんてこともない。全体に対する部分のように癒着し、縺れて絡み合ってどれひとつとして摘出なんかできやしない。いい大人ならだいたい分かりそうなものだが、こと超越者に限ってはそれも適用できないらしい。なにせそれは「超越者」。何でもできるのだから、その程度の摘出もできようという理屈なのかもしれないが、稚拙であまりに理不尽ではなかろうか。
 そういうわけで。
 ソレもいい加減うんざりしてきたところなのだ。
 くしゃ、の一音で終わらせられるのもある意味幸せだろう。少なくとも、だ。成長著しい菌類の増殖のように乱発している理不尽に憮然とするソレに似た姿のモノたちに意識を向ける。
 彼らの救いがどこにあるというのか。
 本当に飽いた。ソレの一存で決めることではなかったかもしれないけど、本当の本当に飽いた。
 私は死ねないけれど。ここでいまあるすべてを終わらせよう。
 幾千度もの行きつ戻りつを経て、ようやっとソレはおずおずと手のひらに”宇宙”をとって、ついに――
 くしゃ、の一音でそれを握りつぶした。

1/19/2025, 12:01:00 AM