あいまいな空
白いものに色をつけよう。水に溶かした色を落として。一層でもいいし、何層でもいい。好きなように、好きなだけ。白いものに、新しい形を残していくように。そうして、できた形に名前をつけよう。自分だけの名前を。白いもの。その繊維の一つ一つに着色されて、染み渡った、あなただけの模様に。……でも一体、なんと名前をつけたらいい?
空模様という言葉がある。
空を見上げたときに、見上げた人が感じる模様がある。曇っていれば、雨が降りそうで。でも、曇り空に陽が差し込めば、いずれ晴れそうで。季節によっては、雪が降りそうだし。雲の形を見て、どこかに地震がきそうな予感を抱くことさえある。でも、ほとんどの人が、そんな模様に名前を与えることはない。目に見えるものに、模様という記号がすでにあるから。
心模様という言葉がある。
自分の内側に潜む、本当に存在しているのかも分からない、心という輪郭。輪郭のさらに内側を埋める、自分だけの色。そこに模様が広がった時、人は感情というものを知る。
空と心は似ている。実際、心をあらわすときに、今日は晴れ模様と言ったり、曇っていると感じたり、雨に濡れている気がすることもある。けれども、一つだけ大きな違いがある。それは、そこにある模様を、自分の力で塗り替えることができるかどうか。
僕たちは自然に敵う力を持っていない。だから、魔法に憧れたりもするのだけれど。道端に落ちる枝を振っても、お守りを握って天を仰いでも、気持ちを込めたてるてる坊主を吊るしても、自然が僕たちの望む模様を写すカンバスになってくれることはない。
でも。自分の心はどうだろう。
たったの一滴でもいい、色を落とすことはできないだろうか。難しいかな? そんな時もある。
心というのはとても曖昧で。自然のように複雑で。ただ、とても純粋に。自分というものを写してくれたりもする。僕たちだけの、カンバスに。
白いものに色をつけよう。
一層でも、何層でも。たまには、すでに描かれた模様にだって。好きな色を落としてもいい。
そうして、できた形に名前をつけよう。
自分だけの名前を。
でも一体、なんと名前をつけたらいい?
あなたの好きなように。
6/15/2023, 10:12:27 AM