ページをめくる
それは、時間をめくることと同じだ。
本を読んでいるとき、日記をつけているとき。
めくったページの後ろに、さっきまでの自分がいる。
そこに、もう戻ることはできない。
ページは、めくった数だけ、未来へ向かって増えていく。
クロがまだ小さかった頃、よく私のひざの上で寝ていた。
私はその小さな頭を撫でながら、ぼんやりと本を読んでいた。
時々、クロは、ページをめくる手の動きに合わせて、頭を少し持ち上げる。
その仕草が愛しくて、私は何度も同じページを行ったり来たりした。
でも、クロはどんどん大きくなって、私のひざの上には収まらなくなった。
そしていつの間にか、本を読む私よりも、私の手の動きをじっと見つめるようになった。
ページをめくると、風がふく。
どこからか、遠い日のクロの匂いがする。
私は今、たくさんのページをめくって、ここにいる。
めくるたびに、クロとの時間が風になって通り過ぎていく。
でも、悲しいわけじゃない。
ページをめくるのは、未来へ向かって歩くことだから。
そして、いつかまた、新しいページをめくる日がくる。
その日は、きっと、クロも一緒にいる。
9/2/2025, 1:09:24 PM