あとは犯人を指し示すだけだ。名探偵の汚れ一つないきれいな手袋が一本の道標を立てる。純白に沿って空中を辿れば解答に至る。
「犯人はあなただ。執事のフィックスさん」
「まさか! 私がお嬢様を手にかけるなど……」
否定を更に否定して、名探偵が朗々と解答を告げていく。執事にとっては都合の悪いことに、事態は幕引きまであとわずかに残すのみでひとつに収束しようとしていた。警官も屋敷の面々もじっと執事を睨んでいる。髭の一本からでも自白を聞き出さんと耳目を駆使していて、俺はと言うと、やはり駄目だったのだと静かに大きな溜息を落とした。誰も聞き咎めない。馬鹿野郎ばかりだ。
「私は、私は……そんな……」
哀れなヤギが逆襲して俺を暴いてくれるというのならぜひそうしてもらいたいのだが、ついに執事の両脇に警官がついたので諦める。
この国で一番の名探偵すら俺を暴かないのだからそういう運命にあるのだと。全部諦めてしまった方が良いかもしれなかった。
「犠牲者が増えることもなく解決できたってことはやっぱ天才なんだよな! また評判が上がる!」
幼馴染が笑っているなら、まあいいかと、思ってもいいだろうか。いいか。田舎のファミレスはすっかり空いていて老人たちばかりコーヒーを飲んでいる。昼間の暗がりを残す店内に派手なファッションで向かい合って座り、俺たちは感想会を開いていた。
依頼帰りのパフェ食ってる名探偵に、次はどんな事件を贈ろうか、考えるだけで頬が緩む。
俺たちの最後はいつになるんだろうか。そのとき俺たちはどんな形をしているんだろうか。こうやって向かい合っていたい。それで、チョコレートがついてしまったからとテーブルに放られた純白の手袋が俺を指し示していれば。それはこの上ない終点だと、胸が震えた。
8/11/2023, 5:23:48 AM