泡藤こもん

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カギに、手が届かない。
ガラスにぺたぺたと両手を貼り付けて、爪先立ちをして。懸命に片手を伸ばしてみるけれど、それでも私の指先よりもずっとずっと上にカギはある。
「ふふっ」
背後から笑い声がする。私はむっとして振り返る。母が、可笑しくて堪らないというように相好をくずして、それでも取り繕うように片手を口元に当てて隠している。
「どうして開けてくれないの」
「どうして開けて欲しいの?」
質問に質問で返さないで欲しい。でも私は利口なので、腕を組んでふんすと鼻息荒く答える。
「だって窓の中からだと、ガラスに写ってるわたしが邪魔なんだもの」
夜の闇の中で、窓ガラスに光る瞳が反射する。

9/25/2023, 6:24:28 PM