わをん

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『不完全な僕』

両手両足頭で五体。生まれる前から頭が無かった僕は母の胎から出てきたときに母の目に触れることなくこの世から消された。僕を取り出した産婆は母に死産だったと伝え、母は喜びから一転して絶望に陥った。
次に生まれるときは頭がついているといいな。そう思ってからずいぶんと時は過ぎた。生まれる機会は何度もあったけれど、どうしてか五体のうちのどれかが欠けてしまう。生まれてもどれかがないと知った母からは拒絶され、あるいは産婆の判断で亡き者にされ、いつまでも生まれ育つ事ができなかった。
自分の業がそうさせているのだろうか。覚えていることを遡ってみると、何百という虫の脚や頭を無邪気にむしっていたことを思い出した。一寸の虫の五分の魂が何百と集まって僕の体をむしっているらしかった。
もうそんなことはしませんと初めて思ったとき、僕は生まれ出た。片腕のない僕を見ても母はかわいい子と言って笑っている。この時代には産婆はおらず、白衣を着た医師や看護師たちは僕の姿を見て戸惑っていたが、母の様子を見て僕を生かす方向へと舵を取ることに決めたようだった。

草むらからぴょんと跳ねたバッタが現れた。
「お母さん!虫!!」
「あらあら」
バッタを見てから母の背中に隠れるまでわずか数秒。あなたは昔から虫が苦手ね、と母が笑う。小さいときから虫の姿を見るとなぜか体が拒否反応を起こしてソワソワしてしまうのだった。母の背中に縋りながらバッタの様子を伺うと、何か言いたげにこちらを鋭く一瞥したバッタはやがてぴょんと跳ねて草むらへと消えていった。

9/1/2024, 3:04:47 AM