わたあめ。

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『あ、流れた。』

満点の星の中、一筋の光が流れる。

「え、見えたの?いいなぁ。俺まだ一個も見えてない。」

『へへ、俺三個目〜』

夏の夜。
星が好きだった俺は、よく流星群を見に来ていた。
この時期だと、ペルセウス座流星群を見ることが出来る。
地元は明かりも少ない田舎だったのもあって、星を見るのには最適だった。

そして、流星群を見に行く時、必ず着いてくるやつもいた。

「ちぇ。全然見えねぇ。」

『もう少し粘ってみろよ。変に探すから見えねぇのかもよ。』

拗ねて友人が草むらに座る。

「大体、毎年見に来てるけどさ、星のどこが好きなわけ?流れ星だって、実際宇宙を漂うゴミとか塵屑だろ?」

『おま……夢ねぇなぁ。』

友人の発言に呆れながら、荷物の中からペットボトルを取りだし、口を付ける。

「あ、それ俺にも分けて。」

『お前のは?』

「もう無くなった。」

仕方ない、と思いながら座る友人のところで屈み、ペットボトルを差し出す。

「サンキュ。」

『退屈なら見にこなくたって良いのに。別に星好きでもないんだろ?』

「んー?まぁ、そうだけどさぁ。」

曖昧な返事をしながら友人は。俺が渡した飲み物を飲み干した。

『あ、ちょ、おい。全部飲んでいいとは……』

「お前と少しでも一緒にいるため。」

ピタリとペットボトルを奪おうとした手が止まる。

何言ってんだ、と茶かそうと友人の顔を見たら、普段しないような優しい顔をしていた。黙っていると、彼が口を開く。

「お前とずっと一緒にいるために、流れ星に願おうと思って。」

そう言うと立ち上がり、空のペットボトルを俺に返してくる。

『柄でもないことを……俺の事そんなに好きなわけ?』

「好きだよ。」

ドキンッと心臓が跳ねた。
長い間一緒にいた彼に対して、今まで抱いたことの無い感情に襲われている。

得体の知れない気持ちから逃げるための言葉を、気づいたら探していた。

『やけに素直じゃん……?まぁ俺もお前の事、大事な友達だと思ってるから……好きだけど。』

普段しない言葉を発したせいか、彼の顔を見れず、そっぽを向いて話す。

「……そうじゃないんだよなぁ。」

ボソッと、小さく。友人の声が聞こえた。

そこで、自分が勘違いしないようにしていた事が無駄だったのと、

生まれて初めて、相手を傷つけた事に絶望したのだ。


そこからの記憶は曖昧だった。


どっちから帰ろうと言ったのかも覚えていないが、俺らは一言も話さずに解散して家へ帰ったのを覚えている。

夏休み期間だったのもあって、翌日友人と顔を合わす事もなかったためか、学校へ行く頃には何も無かったかのように話すことができた。

いつも通りすぎて正直戸惑っていたけども、変に追求したり狼狽えるよりも、その方が俺らにとってもいい気がした。


数年後、俺は上京して都内の会社で働いていた。

社会人生活にも慣れてきて、夜の天気のいい日には空を見上げることが出来るくらいにはなった。

家事や寝支度をひと通り済ませた俺は、いつも通りベランダへ出て星空を眺める。

地元と比べると明かりが多いのでそこまで見えないが、ちらほら星を見つけることは出来る。

あんな出来事があった今でも、俺は星が好きだ。

あの後しばらく星は見れなかったが、小さい頃から好きだったからか、気づけばまたこうして星を眺めていた。

とはいえ、星を見る度に友人の顔がフラッシュバックはする。
その度にどこか切なくもなるのだ。

『ほんと……ガキだったよなぁ。』



「誰がガキだったって?」



声に振り返ると、切なさの対象である彼が立っている。

そう、今俺たちは絶賛二人暮らし中である。
上京してしばらく経った頃、会社に彼が転職してきたのだ。そこからまた話すようになっていき、今は同僚であり友人……

いや、恋人になっていた。


「まーた、空見てるの?」

『まぁな、今日も天気いいし。』

「でもやっぱ地元に比べると見えねぇよなぁ。」


彼は俺の隣にさりげなく来ると、同じように空を見上げる。

昔は、一緒に見てくれる友人にありがたく思っていたが、今はこうして好きな事を共有できる時間や彼に対して、愛おしく思う。

『少しくらいは見えるぞ。まぁ流れ星は見えないけど。』

少し残念に言うと、彼はハハッと笑った。

「でも俺はもう見えなくてもいいや。」

『そうなのか?』

よく流れ星を見たがってたのに、と少し驚いて聞くと、彼の顔がこちらへ向く。

「だってもう、一番叶えて欲しい願いは叶ったからな。」


そうやって言った恋人の顔は、とても可愛く見えた。



#流れ星に願いを

4/27/2024, 12:00:42 PM