恋をしていた。
その人は、コーカソイドのDNAの入った人で、長めの銀髪をいつも鬱陶しそうにかき上げていた。
色素の薄い瞳を飾る睫毛は芸術品そのものだった。
素直に想いを伝えてくれない人だったし、口調も悪いし、いつも眉間に皺を寄せていて、素行不良を絵に描いたような人だった。
なのに、白く細長い指でピアノを爪弾くことができるし、大切な人を絶対に守るという筋の通った人だった。
色んなところに2人で行ったし、色んなことを体験した。時には喧嘩もしたし、別れにまで発展したこともある。
彼の死を経験して、涙したことさえ。
そんな日々も、現実の部活が忙しくなって、自然と私の興味が彼から薄れていった。
そう、彼と私は住む次元が違ったのだ。
彼に会うには、親のいない間にパソコンを使って、他人の描いた世界に没入することが必要だった。
設定ウィンドウを開き、彼に呼んでほしい自分の名前を入力すると、彼との夢を見ることができた。
歳を重ね、現実でも恋をたくさん経験した。
学んだことは、彼のように、ギャップを持った人間はそれほどいないということだった。
全員がそうというわけではないが、彼のように異性を惹きつける容姿の持ち主は、種の繁栄をするため、その容姿をフルに活用しているように思えた。
そして、素行不良な人間が、信念を貫いたりそのために努力したりということは珍しい。
また、愛情を素直に伝えてくれる人と一緒にいることで、自分をより愛することができ、幸せな世界が広がっていくということも、学んだ。
そういった学びの結果、私が幸せになるために伴侶に選んだのは、彼とは真反対の、優しく繊細なひとだ。
伴侶を心から愛しているし、裏切るつもりも、手放すつもりも毛頭ない。
しかし、多忙な日々の疲れと、穏やかな伴侶との日々により、私は刺激を求めるようになった。
そして、彼のことを思い出すようになった。
思い出の彼との日々はまさに虚構だが、実際に経験したことのように胸を締め付けるものばかりだ。
今度は親の不在を気にすることなく、自分のスマートフォンで、彼に会えるブラウザを開いた。
あとがき
習慣4日めになりました。
フィクションを織り交ぜながら書いてきましたが、今回は完全?ノンフィクションです。
特殊な趣味かもしれず、全く意味の分からない方もいるかもしれませんので補足しますと、10年ほど前の私は「夢女子」でした。
興味がある方はググっていただければ意味が分かるかと思います。非常に俗っぽい自分の一面を丁寧に書いてみましたが、初恋の相手が誰かを勘づかれる方もいそうで、少しヒヤヒヤしています。
4.現実逃避
2/27/2023, 1:24:10 PM