彼は誰よりも自由で強い人だ。彼と時間を共にし言葉を交わすときは、いつも薄氷の上を歩くような気持ちだった。踏み違えて割れてしまえば海の底から地球の裏側まで落下し、手の届かぬ場所で一人何事もなかったかのように暮らし始める。彼はそんな人だった。だからこの家で初めて「ただいま」と言ってくれた日にはもう、玄関先なのにみっともなく泣くしかなかったのだ。(題:遠くの空へ)
4/13/2024, 7:22:15 AM