「今からカレーを美味しく作る術を伝授します。」
エプロンを付けた満花は、人差し指を立ててそう言った。
芝居がかった声色に恭介は笑いを堪えると、数回乾いた拍手をお見舞いする。
カレーの作り方を教えると言ったのは、数日前の満花の方だ。
ちょうど二人とも空いていた土曜日の午後三時。
普段は満花しか立たないキッチンで、机の上には人参やじゃがいもや豚こまやカレールーが広がっている。
「まず、料理をする前に最初にすべきことはなんでしょう?」
「すべての食材にありがとうを伝える。」
「ちがっ……わないけど、もっと現実的方針で。」
分かりやすく眉間にシワを寄せる満花の様子が面白くて、恭介は口の中いっぱいに空気を溜めることでしか吹き出すことを抑えられなかった。
4/25/2024, 7:41:17 AM