お題『魔法』
ふいっ、とその指を振れば、ふわり、とティーカップが空中を躍る。紅い紅茶がちゃぽんと小さな水の音を立てた。あたたかな日に紅茶が照らされ、川のように煌めく。
水面を眺めるように、陽が瞳に反射した。
「すごい…。」
「すごい?」
少々得意げになりながら、女性はふふ、と目を細めながら微笑んだ。それに対して、少年が魔法から目を離さずにゆっくりと瞬きをして、口を開いた。
「すごいです。きれい。魔法って、こんなに不思議なものなんですね。」
彼は、色々な角度からそれを見つめ、ほう、と少し息を着いた。
「あんまり見た事ない?」
「ぼくは初めてです。他の人は見た事、あるんでしょうか。」
「どうかな。」
答えを魔法の中へ隠してしまうように、女性は少年の前へティーカップを届けた。
「少なくとも、私は、人間に見せるのはあなたが初めてかな。」
くるり、と指が円を描けば、マドラーなしに、彼女は紅茶の中身を混ぜた。それを息を止めて、少年は見つめた。
「きみ、息をしなさい。魅入られすぎだよ」
「あ、っ」
はっと気がついて、少年が息を吸う。それを見て、あはっ…と肩を竦めて笑った。
2/23/2025, 11:24:19 AM