『未来の記憶』
「未来の記憶をお売りしますよ」
と仮面の人が言った。
「それは有益なんでしょうね」
尋ねると、仮面の人は首をかしげた。
「それは人によります」
ともあれ、買ってみることにした。
後で話のネタになると思えば、金額はそう高く感じなかった。
記憶の種なるものをひとつまみし、口へ放り投げる。ほんの少し苦味を感じた。
肝心の記憶といえば、平凡なものだった。病院らしきベッドで横たわる自分。しわくちゃな手を握りしめている誰か。遠くなっていく意識。
意識が戻ってきて、仮面の人に感想を言った。特に予想外の面白いところはなかったと。
「未来の記憶は推理小説でいえば、犯人がわかるところを読むようなこと。恋愛映画でいえば、二人が結ばれているシーンを観るようなもの。普通の人は最期のシーンになるんでしょうねぇ」
人生は物語のようなものではない。劇的な人生でなかったことを、むしろ良かったと思うべきなのだろう。
平凡な人生の幕引きに少し安堵した。
2/12/2025, 1:10:01 PM