21初恋の日
初恋の電車が引退するので、その姿を一目見に来た。
比喩じゃない。私は電車に恋をしていた。
柔らかさと鋭さを兼ね備えた流線型のボディ、晴れた日の海みたいな深い青。ちょっと甘えん坊にも見える丸い窓。
見た目だけじゃなく乗り心地もだ。シートピッチも角度も、揺られているときの幸福感も。何もかも最高だった。
引退セレモニーは粛々と進んでいく。
私の初恋の相手は、大きな湾をぐるりとすすんで、そのままもう戻らない。
今日は快晴だ。晴れてよかったな。鼻をすすると、駅のすすけた匂いと、微かな潮の香りがした。
5/8/2023, 8:04:46 AM