ある

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力を込めて


大丈夫、大丈夫!
あとはこれまでの頑張りを発揮するだけだよ。

そう言葉をかけてもあなたは下を向いたまま。
いつもより倍の時間をかけて、靴紐を結んでいる。

この扉を開けたら、玄関を越えたら。
また新しい一日が動き出す。

それが今日はほんの少し特別な意味を持っていて、それがあなたの体に重くのしかかっているみたい。

丸くなった背中をじっと見つめながら、私は昨日までのあなたの姿を思い出す。

家に帰ってきてからも机にかじりついて、遅くまでデスクランプを照らしていたこと。
休憩したらと声をかけても、生返事しか返さないで、納得いくまでそれに向き合い続けたこと。
時にはままならない現状に、一人で涙していたこと。

全部全部、あなたの力だ。

私はすうっと息を吸い込んでから、そしてゆっくりと右手を掲げた。

パァン!

「いった! え、え!?」

もう私が出来るのは、ここまで。
これがどれだけのものになるかわからないけど、
とにかく、今持てる私の全てを注ぎ込んだ。

まだびっくりした顔をしてるあなたに、私はニカッと笑顔を向ける。
そしてもう一度、今度はそっとその背中に手を添えてから、両手をぐっと押し付けた。

力いっぱいの、祈りを込めて。

10/7/2024, 1:56:47 PM