あると

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『喪失感』

 14歳のカルラは、潮風のあたる崖の上でひとり、佇んでいた。
 晴天で、背後の遠くに見える風車は重くまわっている。だがカルラの相貌からは、あたり一帯に平等に降り注いでいるはずの日光が、ごっそりと抜け落ちていた。
 崖下では岩を削るように波が打ちつけている。

 その波に身を投げるつもりはない。カルラはそんな意思を持ってここに立っているのではなかった。
 しかし、今ここで重力に従って、波とともに岩に衝突したとしても、この妙な空洞を囲う石膏のような心には変化なんて起きないだろう。
 カルラにはそう思えた。

 そっと自らの腹を撫でる。

 顔からは表情などいっさい受け取れないというのに、その手の動きからは、何か漠然とした暖かさが感じられる。

 腹を撫でる。

 何度も何度も。

 つい昨日までは、もうちょっと膨らんでいたのに。今ではペたりと引っ込んでいる。
 それはカルラの自慢でもあったが、この時ばかりはそうは思えなかった。

 ここにいた生命は、昨日で下ろしてしまった。

 表情も、心も、腹の中身も、昨日で同時に抜け落ちた、14歳のカルラ。彼女はしばらく崖の上に立っていた。

 傷つくことも、悲しむことも、泣くこともなく。

 人生で初めて理解した、『喪失感』というものを、無感動にただ味わっていた。
 

9/10/2024, 11:58:13 AM