圧倒的、劣等感。
それはきっと、小説家や芸術家といった創作を生業とする人間だけではなく、スポーツや学業、いや、何かに本気で向き合う総ての人間が感じるものなのだろう。
俺には物書きの師匠がいる。
師匠……というよりかは、彼女を亡くし、作品も作れず、抜け殻のようにただ日々を過ごすしかなかった俺の前に現れた救世主のような存在だ。
その人は俺にとっての太陽であり、俺は彼に対して崇拝に近い感情を抱いていた。
そして、そんな彼の言葉が今もずっと頭の中に残っているのだ。
──君の作品は本当に個性的で良いよねぇ。新しい表現法を常に探しているっていうか、そういう貪欲さが感じられるんだよね。僕は好きだなぁ、君の書く小説。
彼はよくそう言ってくれた。俺の書いた物語を読んで、それを褒めてくれた。
しかし、今思い返してみれば、遠回しにぐちゃぐちゃであると、こんなの文学作品ではないと揶揄していたのかもしれない。
彼は天才だった。
まるで作家になることを運命づけられ、本人もそれを知っていたかのように生まれた瞬間から並々ならぬ努力を重ね続けた。
世界的ヒット作があるわけではないが、それでも根強いファンを持つ名作家として今でも多くの人に愛されている。
神の寵児なのだ。彼という作家は。
対して、十数年前まで何の夢もなかった俺はただ読書が好きだからという理由から唐突に始まり、惰性で続けてきただけの凡人に過ぎない。しかも、その才能は彼に遠く及ばないときている。
遠い、遠い。俺の作品を認めてくれる数少ない人間の一人が、俺というどうしようもない存在を気にかけてくれる人が、むしろここで何もかも総て終わらせてしまったほうが幾分かマシなのではと思う程に絶望しか見えてこない俺の人生を、変わらず照らし続けてくる太陽が。
あんなにも、遠い。
圧倒的、劣等感。
距離
12/1/2022, 12:42:56 PM