語り部シルヴァ

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『大空』

思い出すのは昔の夢。

小さい頃幼なじみと共に砂埃まみれのこの閉鎖された国から
飛行機で脱出してやるんだと腕を組み約束したあの日々。

結局は実験中に幼なじみは事故で飛行機ごと木っ端微塵に、
俺は国に捕まり親を人質に捕らえられたが、
生かす代わりに国の犬に。
この腐りきった国のために生きるなんてまっぴらごめんだ。
それでも親を救う方法はこれだけ。
何も考えず何も感じず言われたことをやればいい。
それだけなんだ。

そう言い聞かせて過去の俺たちのように反抗しようとする者が
いないかパトロールを命じられ辺りを歩く。
俺が歩けば談笑する者は黙り込み、
俺を見る人の視線は冷たく恐怖に怯えている。
そんな中、無邪気な話し声が聞こえる。
割って入ろうとした親を押しのけドアを強引に開ける。

「あ、お兄ちゃん!」
まだ脱出を試みようとしたときに
仲良くなった年下の子たちだ。
「あのねあのね。
僕亡くなったお兄ちゃんみたいに飛行機を作ってね!
それで...」
元気に話すその姿は幼なじみのあいつを思い出させる。
本当はやめろと怒鳴りたい。
それでもあいつに動かされた心がそれを抑止する。

「そっか...今日俺が来たからいいものの、
他の奴らが来るかもしれないから周りが静かになったら
お前らも静かにするんだぞ。」
そう言って手袋を外し頭を撫でる。
笑顔で元気よくはーいと返事する子たちを見て家を出る。

外で怯えながら待っている大人たちに
「もう少し警戒心を持つようにと言っておいた。
気をつけるように。」
と伝えパトロールに戻る。

見上げた空は相変わらず汚く青空が見えない。
それでも差し込む太陽の光はあいつみたいに眩しく、
帽子のつばを持ち空を見ないように顔ごと伏せた。

大空を目指した過去も見えなくなるほど帽子を深く被って
また歩き出した。

語り部シルヴァ

12/21/2024, 11:48:36 AM