半袖を腕まくりして、二の腕全開。
そこに、一匹のカエルのタトゥー。
「なんで…カエル?」
可愛いイラストの感じのカエル。
タトゥーとして入れるには似つかわしくない。
「別にいいだろ。若気の至りだよ」
「どんな若気だよ。カエルが好きなの?」
「そりゃ嫌いじゃないけど…このカエルは特別」
黄色くて、目がデカくて可愛い。
ニッコリ笑っている。
「特別なんだ。名前とか、あるの?」
「名前は…ピョン吉」
「…ん?なんか聞いたことあるな」
「昭和の頃のアニメに出てきたカエルだよ。Tシャツにプリントされてて…生きてた」
「生きてた?プリントされてて?」
「まあ、実際には、主人公のヒロシがつまずいて転んで、そこにいたピョン吉が潰されてペチャンコのまま、Tシャツに貼り付いてしまうんだ。それから、平面ガエルとしてヒロシのTシャツで生きることになる」
「なんだそりゃ。昭和ってハチャメチャだな」
「サブスクで見たんだよ、何の気なしに。そしたら、ハマっちゃって」
「…なんで?そんなに面白いの?」
「面白いし、ピョン吉が好きで。それで、このタトゥーを彫った。Tシャツは脱がなきゃいけないけど、これならずっと一緒にいられるから」
「嘘だろ。突っ走りにもほどがある」
「まさに、突っ走るんだよな、こいつ。何しろ『ど根性ガエル』だから」
「…どーゆーこと?」
「いや、だから…」
言葉の途中で、彼は走り出した。
もの凄い勢いで、駅前のたこ焼き屋台に向かって。
こいつ、そんなに腹減ってんのか?とも思ったけど、彼の二の腕の一部分が少し、盛り上がっているように感じたのは…気のせいだろうか?
7/26/2025, 1:00:48 AM