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「無垢」

「ねえ、失恋って何色?」
休日のカフェ、久しぶりに会うこのメンバーは、もうしゃべりつくして何もネタがない。こんなときに突拍子もないテーマを投げかけるのは決まって律だ。そういえば、前回会ったときに失恋したと泣いていたっけ。

「水色かな」
「なんで?」
「涙の色」
涙は水色?晴の言葉に、無色透明でしょと突っ込みたくもなるが、涙は水と言えなくもない。

「白かな」
「なんで?」
「失恋すると必ずケーキ食べるの。だからクリームの白」
そうだった優は食いしん坊でよく食べる。

で、あんたは?とみんなの視線がこっちに向いた。
「グレー」
「は?どういうこと?」
「まだ失恋したことないからわかんない。白黒つけられないからグレー」

「相変わらずね。まだ恋もしてないから、失恋もない」
「まあ、そうだけど。律はどうなの?」
「闇」
「色じゃないじゃん」
「色がなくなるの」
「ずるい」

「じゃあ、何にも色のない画用紙がありました。最初に何色を使いますか?」
「白」
「ん?画用紙って元々白じゃない?」
「だって『何にも色のない』って言った」
「じゃあ、白で表現したいものって?」
「無垢」
「無垢って白のイメージ?」
「それはそうでしょ。花嫁の白無垢」

「無垢は光」
律がまた難しいことを言う。
「または罪」
「はっ?」
「罪とは真逆なんじゃない?」
「この汚れだらけの世の中で無垢でいること自体ありえないでしょ。それは無関心だからだと思うのよね」

「じゃあ、私たち全員、無垢じゃないね」
「確かに」
「無垢じゃない私たちに乾杯!」

6/1/2024, 2:04:44 AM