「誰よりも」
*長いです。
私が上げてきた中で1番、長いと思います。
タイトル回収出来ず、途中で終わっています。
すみません。ストーリーも終わりも決めているので、もしかしたら続き書くかもしれません。
それでも良ければ…
努力は報われる、そんな言葉を何回も聞いた。
でもそれは必ずしも自分の望む形で報われるとは限らない。
それを私は身をもって知っていた。
まだ私が小学生の頃、私には夢があった。
それは主役として演劇の舞台に立つこと。
小さい頃から物語の世界が好きだった。
まだ幼稚園の頃、ある演劇を見に行ったことがきっかけだった。
演劇というのがどういうものなのか最初は分からず、ただ今から何が始まるんだろうという好奇心で胸がいっぱいだった。
そして始まるやいなや場の空気が変わったのを子供ながらに感じたように思う。
始まった瞬間、私の視線は舞台に釘付けになった。
物語の世界が現実に飛び出してきたような
迫力と世界観に私はあっという間に引き込まれてしまった。
そして自分も物語の世界に入りたい!ただ純粋にそれだけの思いで演劇の世界に足を踏み入れた。
それから地元の児童劇団に入り、現実に突き落とされた。
厳しい稽古の日々、周りは上手い人ばかり。
飲み込みも、上達も、早かった。
でも、自分はあまり上手くいっていなかった。
年の差もあったのかもしれないが、
当時の自分は年の差だとか、経験の差だとか、そんな事を考える頭はなくて、ただ勝たなければあの舞台には立てないのだということが頭の中を
埋めつくしていて、勝たなければいけないと、そのことだけが頭にあった。
朝から夜まで稽古づけの日々だった。
それでも苦に思ったり、投げ出したいと思った記憶はない。
それほどお芝居にのめり込んでいた。
それからは少しずつ周りから褒めて貰えるようになった。
それが嬉しくて、嬉しくて、余計にのめり込んでいった。
暇があれば基礎練習や、お芝居の練習、課題などをやっていた。
そんな生活を続けて何年か経った頃。
小学生5.6年生の時、私の友達でもありライバルにもなるヒカリ(仮名)と出会った。
ヒカリは入った時から周りから頭1つ抜けていて
とても、とてもお芝居が上手かった。
技術的な面だけじゃない、才能もあって容姿もとても可愛らしくて、みんなを引き込む魅力もあった。
私にないものを全部持っていて、そんなヒカリが私はあまり好きではなかった。
というのもヒカリはあまり稽古に来なかった。
でも、ヒカリは稽古に来なくても出来てしまった。
先生に言われた事よりも更に磨きをかけてきていた。
普段厳しい先生もそんなヒカリのことを甘く見ているのか、ヒカリがいる時は随分と優しく、激しく怒ることもなかった。
普段私がミスをしたり、言ったことをしっかり出来なかった時は厳しく喝を入れるのが日常茶飯事だったし、周りにも厳しかったからヒカリに対する態度を見てとても驚いた。
それと同時に私には怒りが込み上げてきた。
毎日ろくに練習に来ることもなく、来てもすぐに帰ってしまう。
それなのに演技はいつも誰より上手くて、輝いてて、あまりにも不公平だと思った。
ずるいと思った。
先生に怒られることもない、ましてや褒められてばかり。
演技は上手くなる一方で練習に来る日は日に日に減っていって。
私は怒りを抑えきれなかった。
私の努力を馬鹿にされてるみたいで、嘲笑われてるみたいで。
ヒカリを見てると私の努力が否定されていくようで、耐えられなかった。
次の日、ヒカリが稽古に来た。
その日もヒカリは私の努力なんて踏み潰されてしまいそうな程の迫真の演技をみせた。
声、仕草、表情、動作、息遣い、何においても私よりも遥かに上手くて、指の先まで役になりきっているかのような、まるでその人物がそこにいるかのような演技に何も言えなくなった。
ただ静かに怒りの炎が燃えていた。
そして、その日もヒカリは程なくして帰り支度を始めた。それを母が「私がやるから貴方はゆっくり休んでいて無理しないでね」と優しく声をかける。
アカリをソファーに寝かせ、母が帰り支度を済ませる。
これももはや見慣れた光景だった。
そして、入口近くに停めてある車で帰っていくのだ。
いつもの見慣れた光景。
でも、その日はそのどれもが私の癪に障った。
過保護にも程がある。
こんなに蝶よ花よと育てられ、自身は才能に恵まれてさぞかし気楽で優雅な生活を送っているに違いない。
考えていると、息が詰まりそうだった。
もうヒカリについて考えるのはよそう。
そう思った時、普段滅多に顔の合わないアカリと視線がぶつかった。
クリっとした目に高い鼻、小さな唇に、小さな顔。そして頭にはいつも決まって帽子を被り、帽子の下から黒髪のロングヘアが綺麗にウェーブしていた。毎回、色もデザインも違うことからも、親に沢山買ってもらっているのだろう。
アカリはこちらに気づいてニコッと微笑むと体を起こす。
起き上がるヒカリを母が支える。
その光景を見ていてまた湧き上がってくる怒りをグッとおさえる。
ヒカリがこちらにゆっくりと歩いてくる。
自分からは一二歩離れたところでヒカリは足を止めた。
そして、ヒカリは母が自分に添えている手をそっと離すとわたしに向き直った。
私は早くその場を立ち去りたかった。
ヒカリを前にして怒りは増すばかりでもう早く帰って欲しかった。
しかし、ヒカリに私の気持ちが届くはずもなく、
彼女は大きな瞳で真っ直ぐ私を見つめると口を開いた。
「ぁ、あの…!━━ちゃん…!私ずっと━━ちゃんとお話ししてみたくて…」
その時、初めてヒカリの声を聞いた。
ヒカリの声は耳を済まさなければ聴き逃しそうなほど酷く小さかった。
お芝居の時とはまるで別人の彼女に少し驚いた。
お芝居をする時の彼女の声はとてもよく響いて、
透き通っていて、凛とした力強さのある声をしている。
でも、今こうして目の前で話す彼女からはそれらを感じられなかった。
別人なのではないかと思うほどに似ても似つかわしくない声に私は一瞬怒りを忘れるほど困惑していた。
しかし、それも一瞬でまた現実に引き戻される。
「私━━ちゃんの演技とても好きで、━━ちゃんみたいな演技がしたくてそれで、稽古に来る度━━ちゃんの演技を観察して自分なりに実践したりしているんだけど中々思うように出来なくて…それに━━ちゃんって見る度にとても成長していて私も頑張らなきゃって思えたの…!だから、だからね、いつもありが…」
気づけば彼女の頬を叩いていた。
やってしまったと思った。謝らなきゃと頭では分かっていた。
でも、それ以上に怒りが勝ってしまった。
これ以上、私を惨めにしないでほしかった。
そんな言葉言われても嬉しくなかった。
どう考えても嘘にしか聞こえなかった。
「そんな言葉言われても嬉しくない!!
私みたいな演技がしたい?嘘言わないでよ!」
だから言ってしまった。
今までずっと抑えてきたストッパーが外れる音がした。
「私よりうんと上手いじゃない!
私は練習しなくても上手くなれる貴方とは違うの!
稽古だってろくに来てないのに、貴方はどんどん上手くなってそれに必死に追いつこうと練習だって死ぬ気でしてる!使える時間は全部使ってる!
それなのに…それなのに…こんなに練習しても私は貴方の足ものにもたどり着けないっ!」
でも、もう私にそれを止めるすべなんてなかった。
私の言動に理解が追いつかないのかヒカリは顔を真っ青にして、わなわな震えている。
一部始終を見ていたヒカリの母は微かに怒りを滲ませていて、それと共に何故か悲しみも伝わってきた。
2/17/2023, 10:10:19 AM