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2 桜散る


 散る桜の子と書いて散桜子。我が両親はひどい名前を私に与えたものだと思う。
 チサコという響きはかわいいと言えなくもないし、友達にチサちゃんと呼ばれるのは嬉しかったけど。
 しかし花が散るなんて、縁起が悪すぎやしないだろうか。高校大学と、桜を散らせることなく現役で第一志望に合格した私の意志の力をほめてほしいものだ。
「散桜子という名は、葉桜が好きな私が付けました。きれいな桜が散った後には、緑がいきいきと芽吹き、強い葉が幹を彩る。そんな風に、花の時期を過ぎても強い子であって欲しくてつけた名です。名は体を表してか、四十過ぎまで独り身でしたが、自分らしくたくましく生き、こうして人生の中盤、葉の時期にすばらしい伴侶とまで巡り会ってくれました。散桜子は私たちの自慢の娘です」
 今日は私たちの結婚式だ。最後の挨拶で、父がそんな風に語っている。
 名付けの由来は、子供のころからさんざん聞かされているのですでに目新しくもなんともない。しかし隣にいる夫は感動してボロ泣きしている。涙もろい人なのだ。私はまあ、いい人と結婚したのだと思う。
「チサのお父さん、いい人だなぁ」
「そうだね、あんたもね」
 四十過ぎの新郎新婦に、ぱちぱちといくつもの拍手が送られている。照れ臭いけど悪くなかった。今日は春先の、よく晴れた日だ。式場の裏に一本だけ咲いている桜は散りかけ。大きくて堂々とした木だから、きっと完全に散っても、それなりには綺麗だろう。私のこれからの人生だって、きっとそれなりに楽しくて、鮮やかなものになるはずだ。目の奥がツンとした。

4/17/2023, 5:07:09 PM