涙の理由
運命というのは扉一つ挟むだけでこんなにも変わるのだろうかと、どこか悟った気持ちで指先の指し示す先を見つめた。
もう残りの時間もないだろう。
本能的にわかる命の限界をどこか他人事のように眺めながら見えなくなっていく目を凝らして見えないはずの扉の先を見ようとした。
いつの間にか夢を見ていた。
目を閉じる事で見た事がない夢を、終わりを迎える事で見ることになると誰が想像しただろう。
生きるという事は与えられたコマンドをこなす事で、
当たり前のことで、快楽も苦痛もかけ離れた場所にあるものだった。死ぬことも同じ。そんな程度だったのに。
面白かった。
同じような境遇なのに、怒って、笑って、照れて。
くるくる回る姿に自分を重ねた。
同じようで違う私と貴方。
田舎に憧れてすり減るネズミと都会に憧れて何も知らないネズミ。違うようで同じ私と貴方。
面白くて面白くて、貴方とならと夢を見た。
そう、夢を見た。
同じように笑う自分を。
田舎のネズミも都会のネズミもネズミでしかなったのに。田舎のネズミに憧れて都会から逃げたかったネズミが、都会のネズミもいいかな、と思えるくらいに。
二人一緒なら何処ででもいいかな、なんて。
初めて見た夢が今、終わりを迎える。
ここにいるよ。
ずっと間違えていた世界のままでいい。
ここにいるよ。
視界が霞んで目が見えない。
見えない先の扉に貴方がいるのに届かない。
夢を見た。
夢を見てしまったの。
見えない目から溢れたなにかはどこか塩辛い味がした。
『現場到着しました。こちら通報がありました裏路地に少女と思われる身元不明の遺体が…』
9/28/2025, 6:55:06 AM