しるべにねがうは

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ゆきをまつ

「……今日も雨だな」
「曇りですわよ」
「や、降っても雨か、と思って」
「……暖かいですからね今年は。お好きですか、雪。」

意外です、と続くお嬢の言葉は全く持ってその通りだ。
全然好きじゃない。寒い。冷たいし。土が混じれば汚いし、
転べば濡れるし。いい事は一つもない。なかった。
腹減って食った事あるけど腹を壊しただけだった。
かき氷食い放題、って思ったんだけどな。
冬の雪夏まで保存して売ってんだと思ってた。

「好きじゃねぇんだけど、まぁ、待ってる」
「何かいい事でもあるんですの?」
「全く」
「じゃあ、いい思い出があったんですね」

だからきっと、待ち遠しいんですのよ。

「そうかねぇ」
「私は好きです、ふわふわして、冷たくて」
「聞いてねぇよ」
「椿の花がとっても綺麗なので、大好きです」

お嬢の中心にあるのはいつもそいつである。
24時間惚気を喰らうのはちょっとばかし堪えるが。
しかしお嬢が1番幸せそうなのがあいつの話をする時なので。
ちょっとばかし、譲ってやるか、と思うのであった。

12/15/2024, 2:15:50 PM