時々思い出す人がいる。
中学時代に親友だったT。
H・T君だ。仲のいい友達は何人かいたが、本当に好きで(恋愛感情とは関係ない)、心から尊敬していた同じ歳のT。
同じ歳ではあったが、全てにおいて私より勝っていた。
当時、『宇宙戦艦ヤマト』が爆発的にヒットし、空前のアニメブームが起こった。
この辺の話をすると長編になってしまうので簡単にまとめるが、
アニメ好きの同級生が集まって、勝手にサークルを作った。その5人の中にTと私が居た訳だ。
2人はそこで知り合ったのだが、あっという間に打ち解けた。
私は漫画やアニメが好きだった(オタクではない、東京にはオタクが居たかも知れないが、まだそんな言葉は市民権を得ていないか、存在していなかった)、その方面の知識なら、かなりなものだったと思うし、作画もまあ上手かった。
しかし、Tはもっと視野が広かった。彼は映画にも詳しく、当時は『スターウォーズ』が封切られたが、制作秘話や耳よりエピソードを何でも知っていた。
SFだけじゃない、当時はブルース・リーの作品や、『エクソシスト』に代表されるオカルトや、『サウンド・オブ・ミュージック』のような名作映画にも詳しかった。
恥ずかしながら、私は漫画以外ほとんど何も知らなかったのである。
Tとは何時間でも話しつづける事が出来た。
『宇宙戦艦ヤマト』は凄まじい人気で、続編『さらば宇宙戦艦ヤマト』が作られた。私は面白く思っていたが、
Tは特に何の感想も述べなかった。彼は『ヤマト』は1作目で十分だったようだ。
それよりも、『未来少年コナン』の方が何十倍も面白いと言っていた。『コナン』の面白さは私も認めている、宮崎駿作品ではNo1だと今も思っている。
Tは、ディズニーの『白雪姫』リマスター版が上映されるから観に行こうと
私を誘ってくれた。すごく嬉しかったし、その作品自体も大変優れていた。不朽の名作である。
盛り上がった2人はディズニーの『ファンタジア』(これもリマスター版)を観に行く計画を立てた。私達の田舎では上映されないので何時間も列車に乗って観に行った…これまたすごい作品だった。旅費をかけて観に行く価値のある作品だった。『白雪姫』と『ファンタジア』を超える作品をディズニーはまだ作ってはいない。
いや、キリが無い、アニメの事と切り離した話しをしたとしても、Tとの思い出、彼の秀でた才能、感性を讃えられるエピソードは幾らでもあるのだ。
しかし、彼はどうなったか?
なんと、キリスト教系の宗教にハマってしまった。
奇特にも読んでくれた方は怪訝に感じたかも知れなが、この頃日本の新興宗教は盛んに起こり、各地で勧誘が活発に行われた。
ラジオ番組で爆笑問題の太田さんが(私と同年代)、ある新興宗教団体に勧誘された話しをしていたが、珍しい話しではなかったのだ。
彼らは若者をターゲットにする。後年、オウム事件など起こり、それらはかなり下火になったが、それらはこの
話しより10年以上後の話しだ。
Tは私をその宗教には誘わなかった。私はTを親友と思っていたのでその団体の事も調べたし、この時キリスト教の事もだいぶ勉強してみた。(そうしなければTの見ている世界が私には理解出来なかったから)
入信する気はなかったが、Tが心配だし、恐る恐る近づいて、その宗教団体の行事や、彼らの自宅にまで招待されて、鍋パーティもご一緒させてもらった。
鍋の中身は貧相で、彼らの暮らしも清貧と言ってよかっただろう。
たぶん、彼らはいい人達に違いあるまい。善男善女に違いない。
けれど私には彼らの教義が、ぜんぜん信じられなかった。話せばとても頭の良い人達なのに、何故こんな馬鹿げた預言とか、予言を信じるのか、理解出来なかった。
実際にその預言だか予言は今のところ全てハズレている、そりゃそうだ、
それを信じない人々は全て滅んだり、地獄行きみたいな事が実際に起こってたまるか。
Tは漫画家になるだろうと、私は思っていたのだが、高校に進学するとともにその宗教に入信して布教活動するようになってしまった。
その団体は今も存在している。
本当に今、君は何をしているのだ?
2/27/2024, 3:02:29 AM