NoName

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言葉はいらない、ただ…

忘れないで欲しい。
誰かが覚えていて欲しい。自分がこの世にいた事を。

やれやれ、こんな時浮かぶなんて随分ビビってるな。 

片道切符を持ったたくさんの人が感慨深げにタラップの上で時折立ち止まり、見送りの人達を見て、意を決して扉をくぐる。

俺は操縦席に座り点検を始める。
機長が黙って機長席に座った。

オールクリア スタンバイOK ウェイティング

機長は俺を見た。この人は中継地で降りる。
また戻って機体を動かす為に。俺より見ているだろう、光景が浮かぶ。

搭乗終了次第出発する。航路の確認はいいか?
はい。準備完了してます。

では、頼む。

中継地まではあっという間で何かを考える余裕はなかった。

この先はコールドスリープに入るが俺が一番最後になる。そして一番最初に目覚める。責任重大だ。

機長は降りる前に黙って握手を求めた。握った手はきつくきつく握りしめられた。

機長は振り返らず降りて行く。その背を俺は見る。
行って来ます。お父さん。お元気で。

8/29/2024, 11:24:58 PM