夕木

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【題:勿忘草(わすれなぐさ)】

 これは、私が高校生だったころに出会った、少し変わったクラスメイトの話だ。


私はその子と、高校生活でほとんどの昼休みを共にした。


 出会いはいたって単純だった。始業式の次の日、クラスで孤立していた私に、

――お昼、いっしょに食べない?

 なんて眩しい笑顔で話しかけてきた。


 その子はお花が大好きだった。

 昼休みには毎日のように学校の裏庭を探検した。一ヶ月に一度ほど、共に植物園にいったりもした。

 花を前にすれば、その子は花言葉や名前の由来などをおもしろおかしく話すのだ。それの顔や声があまりにキラキラしていて、ヒマワリを擬人化したらこうなるんだろうな、なんてくだらないことを考えていた。

 そんなある日、その子にひとつの質問をした。

"一番好きな植物ってなんなの?"

 彼女は一拍考えてから言った。

――ワスレナグサ……かな?

"へえ、どんな植物なの?"

――青とか白の、小さくてかわいいお花を咲かせるの。花言葉は、有名なのは"わたしをわすれないで"かな。

"あ~、聞いたことある!恋人とか友達に贈るんだよね"

――そうそう!でも、その花の一番好きなところは、その漢字なんだよね。

彼女がくしゃくしゃなメモ用紙を取り出して、ボールペンで字を書いた。


『勿忘草』


"……これでワスレナグサって読むの?順番逆じゃない?"

――へへ、これでそう読むんだよね~。『勿』って漢字が"~しない"、って意味だから、漢文の書き下し文みたいな感じで、ワスレナグサってつけられたんじゃないかな。

"なにそれ、面白いね!でもなんでこれが一番好きなの?"

――えっと、ちょっとぶっとんだこと言うんだけどさ、私、勿忘草の『勿』みたいな存在になりたいんだよね。

"……どういうこと?"

――『勿』って字、話すときには読まれないというか、そこにあるって思われないけど。なかったら忘草になって、"忘れてしまう草"みたいに、意味が逆になっちゃいそうじゃない?
 だから、ワスレナグサの根本を支えてる文字って『勿』だと思うんだよね。

"えっとつまり?分かるような……分からないような"

――簡単にいうと、決して目立たないけど、誰かを支えられたり、誰かのこころにいい影響を与えられるような人になりたい、ってこと!



 その会話は、不思議とずっと、こころに残っている。社会人になった今でも、だ。

 そして今では、私もそんな人になりたい。そう思うのだ。

 あの時、あの子はそんな人になりたいって言ってたけれど、もうなれてたんじゃないの、って最近考え出した。

 だって、時間を越えて、今の私のなりたい人の像にまで、いい影響を与えてくれているのだから。



 次の週末、彼女と高校卒業ぶりに会うことになっている。何を話そうか、わくわくしてくる。

 それと、彼女になにか贈り物をしたいな。高校のときはそういうの、できなかったから。



 ああ、そうだ。彼女に桃色の勿忘草をイメージしたアクセサリーを贈ろう。




 ピンクの勿忘草の花言葉は『真実の友情』




 あの子への贈り物にはピッタリだ。

2/2/2026, 12:20:59 PM