『正直な人』
正直と言えば良いのか、
はたまたバカ正直と言えば良いのか。
貴方は強く正しく、とても真っ直ぐだ。
自他ともに認める本当のバカ正直。
それゆえに言わなくて良いことを正直に言ってしまう癖がある。その癖のせいで何度か人を傷付けていることもある。
それが分かる度、本気で申し訳なさそうに謝るものだから、それがその人の性格だと理解されていることの方が多い。
見ているとハラハラして、だけど人懐っこい貴方は愛すべきバカである。
悪いことは悪い。良いことは良い。
はっきりと線引きしている貴方だからこそ、信用出来る。
そんな貴方が、私と出会ってから初めて嘘をついた。嘘だと分かる嘘だった。
「なにがあったの?」
貴方は見違えるほどに痩せこけていて、体がどこか悪いのは見て分かるほどだった。
「どうってことないよ。大したことない。
最近、食欲が湧かなくて」
今まで風邪を引いたときも正直に体がダルいと伝えてくれた貴方が、こんなにも分かりやすい嘘をつくのは初めてで、ことの深刻さに怯えた。
問い詰めると、貴方は凄く悲しそうに笑いながら
「君に心配を掛けたくなかった。
僕のことで、君が悲しくなるのは見たくなかった。でも話さないのは不誠実だった。ごめんなさい」
そう言った。
「僕はあと、余命6か月。」
正直に話した貴方の口から出た言葉は到底信じられるわけがなかった。
お題:《正直》
6/2/2023, 12:34:44 PM