『善悪』
俺には、子供の頃の記憶が無い。無くなった理由もわからない。
だが、1つだけ覚えている事がある。
子供の頃に、善悪の区別が付けれなくなった。
自分の損得だけを考え、これまで生きてきた。
人を殺しても、犯罪を犯しても、何も感じない。無論、一般的に良いと言われている事をしても、だ。
でも、俺は今、自分が変わったと感じた。
俺はある追手から逃げる為、ある廃墟に入った。身を隠し、隙を見て逃げる機会を伺う為に。
「おとうさん……おかあさん……」
その廃墟で、泣いている少女がいた。隅っこで蹲り、何かに怯えているようだった。
何も感じないと思った。その少女がこの後誰かに殺されたとしても、何も変わらないと。そう思っていた。なのに——
「私を、1人にしないで……」
その、寂しさと絶望が入り混じった声を聞いた瞬間、懐かしさと共に助けなきゃ、と言う気持ちになった。
何故かはわからない。何故懐かしさを感じたのか、何故その少女だけ助けなきゃと思ったのか。
脳が自分の変化を処理出来ていない。でも、体は動いた。少女に近づき、顔を覗き込み、声をかける。
「小夜」
少女の名前は聞いていない。なのに、その名前が無意識に出てきた。
「え……? おにいちゃん、だれ……?」
少女は頭を上げ、俺の顔を見る。
「話は後だ。取り敢えず俺と来い。助けてやる」
この不思議な少女と共に歩めば、俺は無くした物を取り戻せるのだろうか?
それはわからない。でも、俺は変わる。そう言う、謎の確信はあった。
4/27/2024, 5:34:24 AM