お題:世界の終わりに君と
キッチンの奥でチン、とトースターが鳴った。
間も無く軽い足音が横切っていく気配がして、甘ったるい「できたよぉ」という声とともに、彼女が現れた。
少し焦げついた食パンとバゲットがカゴに並んでいる。
その中でひときわよく焼けたやつを手に取り、僕は皿に乗せた。あっ、と彼女が抗議する。
「それ、私が食べるつもりだったのに」
まあまあ、と宥めながら、僕はバターといちごジャムをトースターに塗りたくって、彼女の皿に乗せた。
ほぼふやけてしまっているせいでよれていて、あまり四角くない。
それでも寄せていた眉がぱっと離れ、目が輝いた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
「へへ、いつもよりジャムもバターもいっぱいだ」
ふんふん、と鼻歌が聞こえてくる。
口の端いっぱいにジャムとバターをつけて彼女がパンを頬張る。それだけで僕はおなかいっぱいだ。
「ねえねえ」
視線を向けるより先に、彼女の顔があった。
大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、彼女は言う。
「またいつか会った時、また一緒にいてくれる?」
口の中が甘酸っぱくて、生ぬるい。
最期に見る光景が彼女でよかったと、心底思った。
6/8/2024, 6:35:14 AM